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〘1146㌻〙

第1章

1 ダビデの子こ ヱルサレムの王わう 傳道󠄃でんだう者しやの言ことば 2 傳道󠄃でんだう者しや言いはく 空󠄃くうの空󠄃くう 空󠄃くうの空󠄃くうなる哉かな 都すべて空󠄃くうなり 3 日ひの下したに人ひとの勞らうして爲なすところの諸もろ〳〵の動作はたらきはその身みに何なにの益えきかあらん 4 世よは去さり世よは來きたる 地ちは永久とこしなへに長存たもつなり 5 日ひは出いで日ひは入いり またその出いでし處ところに喘あへぎゆくなり 6 風かぜは南みなみに行ゆき又󠄂また轉まはりて北きたにむかひ 旋轉めぐりに旋めぐりて行ゆき 風かぜ復またその旋轉めぐる處ところにかへる。 7 河かははみな海うみに流ながれ入いる 海うみは盈みつること無なし 河かははその出いできたれる處ところに復また還󠄃かへりゆくなり 8 萬すべての物ものは勞苦らうくす 人ひとこれを言いひつくすことあたはず 目めは見みるに飽󠄄あくことなく耳みゝは聞きくに充みつること無なし 9 曩さきに有󠄃ありし者ものはまた後のちにあるべし 曩さきに成󠄃なりし事ことはまた後のちに成󠄃なるべし 日ひの下したには新あらたしき者ものあらざるなり 10 見みよ是これは新あらたしき者ものなりと指さして言いふべき物ものあるや 其それは我等われらの前󠄃さきにありし世々よゝに旣󠄁すでに久ひさしくありたる者ものなり 11 己前󠄃まへのものの事ことはこれを記憶おぼゆることなし 以後のちのものの事こともまた後のちに出いづる者ものこれをおぼゆることあらじ

12 われ傳道󠄃でんだう者しやはヱルサレムにありてイスラエルの王わうたりき 13 我われ心こゝろを盡つくし智慧󠄄ちゑをもちひて天あめが下したに行おこなはるる諸もろ〳〵の事ことを尋󠄃たづねかつ考覈しらべたり此この苦くるしき事件わざは神かみが世よの人ひとにさづけて之これに身みを勞らうせしめたまふ者ものなり 14 我われ日ひの下したに作なすところの諸もろ〳〵の行爲わざを見みたり 嗚呼あゝ皆みな空󠄃くうにして風かぜを捕とらふるがごとし 15 曲まがれる者ものは直なほからしむるあたはず缺かけたる者ものは數󠄄かずをあはするあたはず 16 我われ心こゝろの中うちに語かたりて言いふ 嗚呼あゝ我われは大おほいなる者ものとなれり 我われより先さきにヱルサレムにをりしすべての者ものよりも我われは多おほくの智慧󠄄ちゑを得えたり 我わが心こゝろは智慧󠄄ちゑと知識ちしきを多おほく得えたり 17 我われ心こゝろを盡つくして智慧󠄄ちゑを知しらんとし狂妄きやうまうと愚癡ぐちを知しらんとしたりしが 是これも亦また風かぜを捕とらふるがごとくなるを曉さとれり
 1146㌻ 
18 夫それ智慧󠄄ちゑ多おほければ憤激いきどほり多おほし 知識ちしきを增ます者ものは憂患うれへを增ます

第2章

1 我われわが心こゝろに言いひけらく 來きたれ我われ試こゝろみに汝なんぢをよろこばせんとす 汝なんぢ逸樂たのしみをきはめよと 嗚呼あゝ是これもまた空󠄃くうなりき 2 我われ笑わらひを論いふ是これは狂きやうなり 快樂たのしみを論いふ是これ何なにの爲なすところあらんやと 3 我われ心こゝろに智慧󠄄ちゑを懷いだきて居をりつつ酒さけをもて肉󠄁身からだを肥こやさんと試こゝろみたり 又󠄂また世よの人ひとは天あめが下したにおいて生涯しやうがい如何いかなる事ことをなさば善よからんかを知しらんために我われは愚おろかなる事ことを行おこなふことをせり〘882㌻〙 4 我われは大おほいなる事業じげふをなせり 我われはわが爲ために家いへを建󠄄たて葡萄園ぶだうばたけを設まうけ 5 園そのをつくり囿にはをつくり 又󠄂また菓みのなる諸もろ〳〵の樹きを其處そこに植うゑ 6 また水みづの塘池ためいけをつくりて樹木きぎの生おひ茂しげれる林はやしに其それより水みづを灌そゝがしめたり 7 我われは僕しもべ婢しもめを買かひ得えたり また家いへの子こあり 我われはまた凡すべて我われより前󠄃さきにヱルサレムにをりし者ものよりも衆多おほくの牛うし羊ひつじを有󠄃もてり 8 我われは金銀きんぎんを積つみ 王等わうたちと國々くに〴〵の財寳たからを積つみあげたり また歌うた詠之うたふ男女をとこをんなを得え 世よの人ひとの樂たのしみなる妻さい妾せうを多おほくえたり 9 斯かく我われは大おほいなる者ものとなり 我われより前󠄃さきにヱルサレムにをりし諸すべての人ひとよりも大おほいになりぬ 吾わが智慧󠄄ちゑもまたわが身みを離はなれざりき 10 凡およそわが目めの好このむ者ものは我われこれを禁きんぜす 凡およそわが心こゝろの悅よろこぶ者ものは我われこれを禁きんぜざりき 即すなはち我われはわが諸もろ〳〵の勞苦らうくによりて快樂たのしみを得えたり 是これは我わが諸もろ〳〵の勞苦らうくによりて得えたるところの分󠄃ぶんなり 11 我われわが手てにて爲なしたる諸もろ〳〵の事業わざおよび我わが勞らうして事ことを爲なしたる勞苦らうくを顧󠄃かへりみるに 皆みな空󠄃くうにして風かぜを捕とらふるが如ごとくなりき 日ひの下したには益えきとなる者ものあらざるなり

12 我われまた身みを轉めぐらして智慧󠄄ちゑと狂妄きやうまうと愚癡ぐちとを觀みたり 抑そも〳〵王わうに嗣つぐところの人ひとは如何いかなる事ことを爲なしうるや その旣󠄁すでになせしところの事ことに過󠄃すぎざるべし 13 光明あかるみの黑暗󠄃くらきにまさるがごとく智慧󠄄ちゑは愚癡ぐちに勝󠄃まさるなり 我われこれを曉さとれり
 1147㌻ 
14 智者ちしやの目めはその頭かしらにあり愚者ぐしやは黑暗󠄃くらやみに步あゆむ 然されど我われしる其そのみな遇󠄃あふところの事ことは同一ひとつなり 15 我われ心こゝろに謂いひけらく 愚者ぐしやの遇󠄃あふところの事ことに我われもまた遇󠄃あふべければ 我われなんぞ智慧󠄄ちゑのまさる所󠄃ところあらんや 我われまた心こゝろに謂いへり是これも亦また空󠄃くうなるのみと 16 夫それ智者ちしやも愚者ぐしやと均ひとしく永ながく世よに記念おぼえらるることなし 來きたらん世よにいたれば皆みな早はやく旣󠄁すでに忘󠄃わすらるるなり 嗚呼あゝ智者ちしやの愚者ぐしやとおなじく死しぬるは是これ如何いかなる事ことぞや 17 是こゝに於おいて我われ世よにながらふることを厭いとへり 凡およそ日ひの下したに爲なすところの事わざは我われに惡あしく見みゆればなり 即すなはち皆みな空󠄃くうにして風かぜを捕とらふるがごとし

18 我われは日ひの下したにわが勞らうして諸もろ〳〵の動作はたらきをなしたるを恨うらむ其そは我われの後あとを嗣つぐ人ひとにこれを遺󠄃のこさゞるを得えざればなり 19 其人そのひとの智ち愚ぐは誰たれかこれを知しらん然しかるにその人ひとは日ひの下したに我わが勞らうして爲なし智慧󠄄ちゑをこめて爲なしたる諸もろものの工作わざを管理つかさどるにいたらん是これまた空󠄃くうなり 20 我われ身みをめぐらし日ひの下したにわが勞らうして爲なしたる諸もろ〳〵の動作はたらきのために望󠄇のぞみを失うしなへり 21 今いま茲こゝに人ひとあり 智慧󠄄ちゑと知識ちしきと才能さいのうをもて勞らうして事ことをなさんに終󠄃つひには之これがために勞らうせざる人ひとに一切すべてを遺󠄃のこしてその所󠄃有󠄃もちものとなさしめざるを得えざるなり 是これまた空󠄃くうにして大おほいに惡あしし〘883㌻〙 22 夫それ人ひとはその日ひの下したに勞らうして爲なすところの諸もろ〳〵の動作はたらきとその心こゝろ勞づかひによりて何なにの得うるところ有󠄃あるや 23 その世よにある日ひには常つねに憂患うれへあり その勞苦ほねをりは苦くるし その心こゝろは夜よの間まも安やすんずることあらず 是これまた空󠄃くうなり

24 人ひとの食󠄃くひ飮のみをなしその勞苦ほねをりによりて心こゝろを樂たのしましむるは幸福さいはひなる事ことにあらず 是これもまた神かみの手てより出いづるなり 我われこれを見みる 25 誰たれかその食󠄃くらふところその歡樂たのしみを極きはむるところに於おいて我われにまさる者ものあらん 26 神かみはその心こゝろに適󠄄かなふ人ひとには智慧󠄄ちゑと知識ちしきと喜樂よろこびを賜たまふ 然しかれども罪つみを犯をかす人ひとには勞苦らうくを賜たまひて斂あつめかつ積つむことを爲なさしむ 是こは其それを神かみの心こゝろに適󠄄かなふ人ひとに與あたへたまはんためなり 是これもまた空󠄃くうにして風かぜを捕とらふるがごとし
 1148㌻ 

第3章

1 天あめが下したの萬よろづの事ことには期きあり 萬よろづの事務わざには時ときあり 2 生うまるるに時ときあり死しぬるに時ときあり 植うゝるに時ときあり植うゑたる者ものを拔ぬくに時ときあり 3 殺ころすに時ときあり醫いやすに時ときあり 毀こぼつに時ときあり建󠄄たつるに時ときあり 4 泣なくに時ときあり笑わらふに時ときあり 悲かなしむに時ときあり躍󠄃をどるに時ときあり 5 石いしを擲なげうつに時ときあり石いしを斂あつむるに時ときあり 懷いだくに時ときあり懷いだくことをせざるに時ときあり 6 得うるに時ときあり失うしなふに時ときあり 保たもつに時ときあり棄すつるに時ときあり 7 裂さくに時ときあり縫󠄃ぬふに時ときあり 默もだすに時ときあり語かたるに時ときあり 8 愛いつくしむに時ときあり惡にくむに時ときあり 戰たゝかふに時ときあり和やはらぐに時ときあり 9 働はたらく者ものはその勞らうして爲なすところよりして何なにの益えきを得えんや 10 我われ神かみが世よの人ひとにさづけて身みをこれに勞らうせしめたまふところの事件わざを視みたり 11 神かみの爲なしたまふところは皆みなその時ときに適󠄄かなひて美麗󠄃うるほしかり 神かみはまた人ひとの心こゝろに永遠󠄄えいゑんをおもふの思念おもひを賦さづけたまへり 然されば人ひとは神かみのなしたまふ作爲わざを始はじめより終󠄃をはりまで知しり明あきらむることを得えざるなり 12 我われ知しる人ひとの中うちにはその世よにある時ときに快樂たのしみをなし善ぜんをおこなふより外ほかに善事よきことはあらず 13 また人ひとはみな食󠄃くひ飮のみをなしその勞苦らうくによりて逸樂たのしみを得うべきなり 是これすなはち神かみの賜物たまものたり 14 我われ知しる凡すべて神かみのなしたまふ事ことは限かぎりなく存そんせん 是これは加くはふべき所󠄃ところなく是これは減へらすべきところ無なし 神かみの之これをなしたまふは人ひとをしてその前󠄃まへに畏おそれしめんがためなり 15 昔むかしありたる者ものは今いまもあり 後のちにあらん者ものは旣󠄁すでにありし者ものなり 神かみはその遂󠄅おひやられし者ものを索もとめたまふ

16 我われまた日ひの下したを見みるに審判󠄄さばきをおこなふ所󠄃ところに邪󠄅曲よこしまなる事ことあり 公󠄃義ただしきを行おこなふところに邪󠄅曲よこしまなる事ことあり 17 我われすなはち心こゝろに謂いひけらく神かみは義者ただしきものと惡者あしきものとを鞫さばきたまはん 彼處かしこにおいて萬よろづの事ことと萬よろづの所󠄃爲わざに時ときあるなり〘884㌻〙 18 我われまた心こゝろに謂いひけらく是この事ことあるは是これ世よの人ひとのためなり 即すなはち神かみは斯かく世よの人ひとを撿ためして之これにその獸けもののごとくなることを自みずから曉さとらしめ給たまふなり 19 世よの人ひとに臨のぞむところの事ことはまた獸けものにも臨のぞむ この二者ふたつに臨のぞむところの事ことは同一ひとつにして是これも死しねば彼かれも死しぬるなり 皆みな同一ひとつの呼吸こきふに依よれり 人ひとは獸けものにまさる所󠄃ところなし皆みな空󠄃くうなり
 1149㌻ 
20 皆みな一ひとつの所󠄃ところに往󠄃ゆく 皆みな塵ちりより出いで皆みな塵ちりにかへるなり 21 誰たれか人ひとの魂たましひの上うへに昇のぼり獸けものの魂たましひの地ちにくだることを知しらん 22 然されば人ひとはその動作はたらきによりて逸樂たのしみをなすに如しくはなし 是これその分󠄃ぶんなればなり 我われこれを見みる その身みの後のちの事ことは誰たれかこれを携たづさへゆきて見みさしむる者ものあらんや

第4章

1 茲こゝに我われ身みを轉めぐらして日ひの下したに行おこなはるる諸もろ〳〵の虐󠄃遇󠄃しへたげを視みたり 嗚呼あゝ虐󠄃しへたげらる者ものの淚なみだながる 之これを慰なぐさむる者ものあらざるなり また虐󠄃しへたぐる者ものの手てには權力ちからあり 彼等かれらはこれを慰なぐさむる者ものあらざるなり 2 我われは猶󠄅なほ生いける生者せいしやよりも旣󠄁すでに死しにたる死し者しやをもて幸さいはひなりとす 3 またこの二者ふたつよりも幸さいはひなるは未いまだ世よにあらずして日ひの下したにおこなはるる惡あく事じを見みざる者ものなり

4 我われまた諸もろ〳〵の勞苦ほねをりと諸もろ〳〵の工事わざの精巧たくみとを觀みるに 是これは人ひとのたがひに嫉ねたみあひて成󠄃なせる者ものたるなり 是これも空󠄃くうにして風かぜを捕とらふるが如ごとし 5 愚おろかなる者ものは手てを束つかねてその身みの肉󠄁にくを食󠄃くらふ 6 片かた手てに物ものを盈みてて平󠄃穩おだやかにあるは 兩手もろてに物ものを盈みてて勞苦ほねをりて風かぜを捕とらふるに愈󠄃まされり

7 我われまた身みをめぐらし日ひの下したに空󠄃くうなる事ことのあるを見みたり 8 茲こゝに人ひとあり只たゞ獨ひとりにして伴󠄃侶とももなく子こもなく兄弟きやうだいもなし 然しかるにその勞苦らうくは都すべて窮󠄃きはまりなくの目めは富とみに飽󠄄あくことなし 彼かれまた言いはず嗚呼あゝ我われは誰たれがために勞らうするや何なにとて我われは心こゝろを樂たのしませざるやと 是これもまた空󠄃くうにして勞力ほねをりの苦くるしき者ものなり 9 二人ふたりは一人ひとりに愈󠄃まさる其そはその勞苦ほねをりのために善よき報むくいを得うればなり 10 即すなはちその跌倒たふる時ときには一箇ひとりの人ひとその伴󠄃侶ともを扶たすけおこすべし 然されど孤身ひとりにして跌倒たふるる者ものは憐あはれなるかな之これを扶たすけおこす者ものなきなり 11 又󠄂また二人ふたりともに寢いぬれば溫暖󠄃あたたかなり一人ひとりならば爭いかで溫暖󠄃あたたかならんや 12 人ひともしその一人ひとりを攻擊せめうたば二人ふたりしてこれに當あたるべし 三根みこの繩󠄂なはは容易たやすく斷きれざるなり
 1150㌻ 

13 貧󠄃まづしくして賢かしこき童子わらべは 老おいて愚おろかにして諫いさめを納󠄃いれざる王わうに愈󠄃まさる 14 彼かれは牢獄ひとやより出いでて王わうとなれり 然されどその國くにに生うまれし時ときは貧󠄃まづしかりき 15 我われ日ひの下したにあゆむところの群生ぐんせいが彼かの王わうに續つぎてこれに代かはりて立たつところの童子わらべとともにあるを觀みたり〘885㌻〙 16 民たみはすべて際限はてしなし その前󠄃さきにありし者ものみな然しかり 後のちにきたる者ものまた彼かれを悅よろこばず 是これも空󠄃くうにして風かぜを捕とらふるがごとし

第5章

1 汝なんぢヱホバの室いへにいたる時ときにはその足あしを愼つゝしめ 進󠄃すゝみよりて聽聞きくは愚おろかなる者ものの犧牲いけにへにまさる 彼等かれらはその惡あくをおこなひをることを知しらざるなり 2 汝なんぢ神かみの前󠄃まへにありては輕々かろ〴〵し口くちを開ひらくなかれ 心こゝろを攝󠄃をさめて妄みだりに言ことをいだすなかれ 其そは神かみは天てんにいまし汝なんぢは地ちにをればなり 然されば汝なんぢの言詞ことばを少すくなからしめよ 3 夫それ夢ゆめは事ことの繁多しげきによりて生しやうじ 愚おろかなる者ものの聲こゑは言ことばの衆多おほきによりて識しるるなり 4 汝なんぢ神かみに誓願せいぐわんをかけなば之これを還󠄃はたすことを怠おこたるなかれ 神かみは愚おろかなる者ものを悅よろこびたまはざるなり 汝なんぢはそのかけし誓願せいぐわんを還󠄃はたすべし 5 誓願せいぐわんをかけてこれを還󠄃はたさざるよりは寧むしろ誓願せいぐわんをかけざるは汝なんぢに善よし 6 汝なんぢの口くちをもて汝なんぢの身みに罪つみを犯をかさしむるなかれ 亦また使󠄃者つかひの前󠄃まへに其それは過󠄃誤󠄄あやまちなりといふべからず 恐おそらくは神かみ汝なんぢの言ことばを怒いかり汝なんぢの手ての所󠄃爲わざを滅ほろぼしたまはん 7 夫それ夢ゆめ多おほければ空󠄃くうなる事こと多おほし 言詞ことばの多おほきもまた然しかり 汝なんぢヱホバを畏かしこめ

8 汝なんぢ國くにの中うちに貧󠄃まづしき者ものを虐󠄃遇󠄃しへたぐる事ことおよび公󠄃道󠄃おほやけと公󠄃義ただしきを枉まぐることあるを見みるもその事ことあるを怪あやしむなかれ 其そはその位くらゐ高たかき人ひとよりも高たかき者ものありてその人ひとを伺うかがへばなり又󠄂また其それ等らよりも高たかき者ものあるなり 9 國くにの利益りえきは全󠄃まつたく是これにあり 即すなはち王わう者しやが農事のうじに勤つとむるにあるなり

10 銀ぎんを好このむ者ものは銀ぎんに飽󠄄あくこと無なし 豐富ゆたかならんことを好このむ者ものは得うるところ有󠄃あらず 是これまた空󠄃くうなり 11 貨財もちもの增ませばこれを食󠄃はむ者ものも增ますなり その所󠄃有󠄃主もちぬしは唯たゞ目めにこれを看みるのみ その外ほかに何なにの益えきかあらん
 1151㌻ 
12 勞らうする者ものはその食󠄃くらふところは多おほきも少すくなきも快こころよく睡ねむるなり 然しかれども富とめる者ものはその貨財もちものの多おほきがために睡ねむることを得えせず

13 我われまた日ひの下したに患うれへの大おほいなる者ものあるを見みたり すなはち財寳たからのこれを蓄たくはふる者ものの身みに害󠄅がいをおよぼすことある是これなり 14 その財寳たからはまた災難わざはひによりて失落うせゆくことあり 然さればその人ひと子こを擧まうくることあらんもその手てには何なに物ものもあることなし 15 人ひとは母はゝの胎はらより出いでて來きたりしごとくにまた裸體はだかにして皈かへりゆくべし その勞苦ほねをりによりて得えたる者ものを毫厘ひとつも手てにとりて携たづさへゆくことを得えざるなり 16 人ひとは全󠄃まつたくその來きたりしごとくにまた去さりゆかざるを得えず 是これまた患うれへの大おほいなる者ものなり 抑そも〳〵風かぜを追󠄃おふて勞らうする者もの何なにの益えきをうること有󠄃あらんや 17 人ひとは生命いのちの涯かぎり黑暗󠄃くらやみの中うちに食󠄃くらふことを爲なす また憂愁うれへ多おほかり 疾病やまひ身みにあり 憤怒いかりあり〘886㌻〙

18 視みよ我われは斯かく觀みたり 人ひとの身みにとりて善ぜんかつ美びなる者ものは 神かみにたまはるその生命いのちの極きはみ食󠄃くひ飮のみをなし 且かつその日ひの下したに勞らうして働はたらける勞苦らうくによりて得うるところの福祿さいはひを身みに享うくるの事ことなり是これその分󠄃ぶんなればなり 19 何人なにびとによらず神かみがこれに富とみと財たからを與あたへてそれに食󠄃はむことを得えせしめ またその分󠄃ぶんを取とりその勞苦らうくによりて快樂たのしみを得うることをせさせたまふあれば その事ことは神かみの賜物たまものたるなり 20 かかる人ひとはその年齡よはひの日ひを憶おぼゆること深ふかからず 其そは神かみこれが心こゝろの喜よろこぶところにしたがひて應こたふることを爲なしたまへばなり

第6章

1 我われ觀みるに日ひの下したに一件ひとつの患うれへあり是これは人ひとの間うちに恒つねなる者ものなり 2 すなはち神かみ富とみと財たからと貴たふときを人ひとにあたへて その心こゝろに慕したふ者ものを一件ひとつもこれに缺かくることなからしめたまひながらも 神かみまたその人ひとに之これを食󠄃くらふことを得えせしめたまはずして 他人たにんのこれを食󠄃くらふことあり 是これ空󠄃くうなり惡あしき疾やまひなり 3 假令たとひ人ひと百ひやく人にんの子こを擧まうけまた長壽いのちながくしてその年齡よはひの日ひ多おほからんも 若もしその心こゝろ景福さいはひに滿足まんぞくせざるか又󠄂または葬はうむらるることを得えざるあれば 我われ言いふ流りゆう產ざんの子こはその人ひとにまさるたり
 1152㌻ 
4 夫それ流りゆう產ざんの子こはその來きたること空󠄃むなしくして黑暗󠄃くらやみの中うちに去さりゆきその名なは黑暗󠄃くらやみの中うちにかくるるなり 5 又󠄂また是これは日ひを見みることなく物ものを知しることなければ彼かれよりも安泰やすらかなり 6 人ひとの壽命いのち千せん年ねんに倍ばいするとも福祉さいはひを蒙かうむれるにはあらず 皆みな一所󠄃ひとつところに往󠄃ゆくにあらずや

7 人ひとの勞苦ほねをりは皆みなその口くちのためなり その心こゝろはなほも飽󠄄あかざるところ有󠄃あり 8 賢かしこき者ものなんぞ愚者おろかなるものに勝󠄃まさるところあらんや また世人よのひとの前󠄃まへに步行あゆむことを知しるところの貧󠄃者まづしきものも何なにの勝󠄃まさるところ有󠄃あらんや 9 目めに觀みる事物ものごとは心こゝろのさまよひ步あるくに愈󠄃まさるなり 是これまた空󠄃くうにして風かぜを捕とらふるがごとし

10 甞かつて在ありし者ものは久ひさしき前󠄃さきにすでにその名なを命つけられたり 即すなはち是これは人ひとなりと知しる 然されば是これはかの自己おのれよりも力ちから强つよき者ものと爭あらそふことを得えざるなり 11 衆多おほくの言論ことばありて虛浮󠄃むなしき事ことを增ます然されど人ひとに何なにの益えきあらんや 12 人ひとはその虛空󠄃むなしき生命いのちの日ひを影かげのごとくに送󠄃おくるなり 誰たれかこの世よにおいて如何いかなる事ことか人ひとのために善よき者ものなるやを知しらん 誰たれかその身みの後のちに日ひの下したにあらんところの事ことを人ひとに吿つげうる者ものあらんや

第7章

1 名なは美よき膏あぶらに愈󠄃まさり 死しぬる日ひは生うまるる日ひに愈󠄃まさる 2 哀傷かなしみの家いへに入いるは宴樂ふるまひの家いへに入いるに愈󠄃まさる 其そは一切すべての人ひとの終󠄃をはりかくのごとくなればなり 生いける者ものまたこれをその心こゝろにとむるあらん〘887㌻〙 3 悲哀かなしみは嬉笑わらひに愈󠄃まさる 其そは面かほに憂色うれひを帶おぶるなれば心こゝろも善よきにむかへばなり 4 賢かしこき者ものの心こゝろは哀傷かなしみの家いへにあり 愚おろかなる者ものの心こゝろは喜樂たのしみの家いへにあり

5 賢かしこき者ものの勸󠄂責いましめを聽きくは愚おろかなる者ものの歌詠うたを聽きくに愈󠄃まさるなり 6 愚おろかなる者ものの笑わらひは釜󠄃かまの下したに焚もゆる荊棘いばらの聲おとのごとし是これまた空󠄃くうなり 7 賢かしこき人ひとも虐󠄃待しへたぐる事ことによりて狂きやうするに至いたるあり賄賂まひなひは人ひとの心こゝろを壞そこなふ
 1153㌻ 

8 事ことの終󠄃をはりはその始はじめよりも善よし 容忍󠄄しのぶ心こゝろある者ものは傲慢ほこる心こゝろある者ものに勝󠄃まさる 9 汝なんぢ氣きを急󠄃はやくして怒いかるなかれ 怒いかりは愚おろかなる者ものの胸むねにやどるなり 10 昔むかしの今いまにまさるは何故なにゆゑぞやと汝なんぢ言いふなかれ 汝なんぢの斯かゝる問とひをなすは是これ智慧󠄄ちゑよりいづる者ものにあらざるなり

11 智慧󠄄ちゑの上うへに財產ざいさんをかぬれば善よし 然しかれば日ひを見みる者等ものどもに利益りえきおほかるべし 12 智慧󠄄ちゑも身みの護庇まもりとなり銀子かねも身みの護庇まもりとなる 然されど智惠ちゑはまたこれを有󠄃もてる者ものに生命いのちを保たもたしむ 是これ知識ちしきの殊勝󠄃すぐれたるところなり 13 汝なんぢ神かみの作爲わざを考かんがふべし 神かみの曲まげたまひし者ものは誰たれかこれを直なほくすることを得えん 14 幸福さいはひある日ひには樂たのしめ 禍患わざはひある日ひには考かんがへよ 神かみはこの二者ふたつをあひ交󠄄錯まじへて降󠄄くだしたまふ 是こは人ひとをしてその後のちの事ことを知しることなからしめんためなり

15 我われこの空󠄃くうの世よにありて各樣もろ〳〵の事ことを見みたり 義人ただしきひとの義ぎをおこなひて亡ほろぶるあり 惡人あしきひとの惡あしきをおこなひて長壽いのちながきあり 16 汝なんぢ義ただしきに過󠄃すぐるなかれまた賢かしこきに過󠄃すぐるなかれ 汝なんぢなんぞ身みを滅ほろぼすべけんや 17 汝なんぢ惡あしきに過󠄃すぐるなかれまた愚おろかなる勿なかれ 汝なんぢなんぞ時ときいたらざるに死しぬべけんや 18 汝なんぢ此これを執とるは善よしまた彼かれにも手てを放はなすなかれ 神かみを畏かしこむ者ものはこの一切すべての者ものの中うちより逃󠄄のがれ出いづるなり

19 智慧󠄄ちゑの智者ちしやを幇たすくることは邑まちの豪雄つよき者もの十人にんにまさるなり 20 正義ただしくして善ぜんをおこなひ罪つみを犯をかすことなき人ひとは世よにあることなし 21 人ひとの言出いひいだす言詞ことばには凡すべて心こゝろをとむる勿なかれ 恐おそらくは汝なんぢの僕しもべの汝なんぢを詛のろふを聞きくこともあらん 22 汝なんぢも屡しば〳〵人ひとを詛のろふことあるは汝なんぢの心こゝろに知しるところなり

23 我われ智慧󠄄ちゑをもてこの一切すべての事ことを試こゝろみ我われは智者ちしやとならんと謂いひたりしが遠󠄄とほくおよばざるなり 24 事物ものごとの理りは遠󠄄とほくして甚はなはだ深ふかし 誰たれかこれを究きはむることを得えん 25 我われは身みをめぐらし心こゝろをもちひて物ものを知しり事ことを探さぐり 智慧󠄄ちゑと道󠄃理どうりを索もとめんとし 又󠄂また惡あくの愚ぐたると愚癡ぐちの狂妄きやうまうたるを知しらんとせり
 1154㌻ 
26 我われ了さとれり 婦󠄃人をんなのその心こゝろ羅わなと網󠄄あみのごとくその手て縲絏しばりなはのごとくなる者ものは是これ死しよりも苦にがき者ものなり 神かみの悅よろこびたまふ者ものは之これを避󠄃さくることを得えん罪人つみびとは之これに執とらへらるべし〘888㌻〙 27 傳道󠄃でんだう者しや言いふ 視みよ我われその數󠄄すうを知しらんとして一々いち〳〵に算かぞへてつひに此事このことを了さとる 28 我われなほ尋󠄃たづねて得えざる者ものは是これなり 我われ千せん人にんの中うちには一箇ひとりの男子をとこを得えたれども その數󠄄かずの中うちには一箇ひとりの女子をんなをも得えざるなり 29 我われ了さとれるところは唯たゞ是これのみ 即すなはち神かみは人ひとを正直ただしき者ものに造󠄃つくりたまひしに人ひと衆多おほくの計略てだてを案出かんがへいだせしなり

第8章

1 誰たれか智者ちしやに如しかん誰たれか事物ものごとの理りを解とくことを得えん 人ひとの智慧󠄄ちゑはその人ひとの面かほに光輝ひかりあらしむ 又󠄂またその粗暴あらき面かほも變改あらたまるべし 2 我われ言いふ王わうの命めいを守まもるべし旣󠄁すでに神かみをさして誓ちかひしことあれば然しかるべきなり 3 早はやまりて王わうの前󠄃まへを去さることなかれ 惡あしき事ことにつのること勿なかれ 其そは彼かれは凡すべてその好このむところを爲なせばなり 4 王わうの言語ことばには權力ちからあり 然されば誰たれか之これに汝なんぢ何いかをなすやといふことを得えん 5 命令いひつけを守まもる者ものは禍患わざはひを受うくるに至いたらず 智者ちしやの心こゝろは時期ときと判󠄄斷さばきを知しるなり 6 萬よろづの事務わざには時ときあり判󠄄斷さばきあり是これをもて人ひと大おほいなる禍患わざはひをうくるに至いたるあり 7 人ひとは後のちにあらんところの事ことを知しらず また誰たれか如何いかなる事ことのあらんかを之これに吿つぐる者ものあらん 8 靈魂たましひを掌管つかさどりて靈魂たましひを留とどめうる人ひとあらず 人ひとはその死しぬる日ひには權力ちからあること旡󠄃なし 此この戰爭たたかひには釋放ゆるしはなたるる者ものあらず 又󠄂また罪ざい惡あくはこれを行おこなふ者ものを救すくふことを得えせざるなり

9 我われこの一切すべての事ことを見みまた日ひの下したにおこなはるる諸もろ〳〵の事ことに心こゝろを用もちひたり時ときとしては此人このひと彼人かのひとを治をさめてこれに害󠄅がいを蒙かうむらしむることあり 10 我われ見みしに惡人あくにんの葬はうむられて安息やすみにいるあり また善ぜんをおこなふ者ものの聖󠄃所󠄃きよきところを離はなれてその邑まちに忘󠄃わすらるるに至いたるあり是これまた空󠄃くうなり 11 惡あしき事ことの報むくい速󠄃すみやかにきたらざるが故ゆゑに世人よのひと心こゝろを專もつぱらにして惡あくをおこなふ
 1155㌻ 
12 罪つみを犯をかす者もの百次󠄄ももたび惡あくをなして猶󠄅なほ長命いのちながきあれども 我われ知しる神かみを畏かしこみてその前󠄃まへに畏怖おそれをいだく者ものには幸福さいはひあるべし 13 但たゞし惡人あくにんには幸福さいはひあらず またその生命いのちも長ながからずして影かげのごとし 其そは神かみの前󠄃まへに畏怖おそれをいだくことなければなり

14 我われ日ひの下したに空󠄃くうなる事ことのおこなはるるを見みたり 即すなはち義人ただしきひとにして惡人あしきひとの遭󠄃あふべき所󠄃ところに遭󠄃あふ者ものあり 惡人あしきひとにして義人ただしきひとの遭󠄃あべきところに遭󠄃あふ者ものあり 我われ謂いへり是これもまた空󠄃くうなり 15 是こゝに於おいて我われ喜樂たのしみを讃ほむ 其そは食󠄃くひ飮のみして樂たのしむよりも好よき事ことは日ひの下したにあらざればなり 人ひとの勞らうして得うる物ものの中うち是これこそはその日ひの下したにて神かみにたまはる生命いのちの日ひの間あひだその身みに離はなれざる者ものなれ〘889㌻〙

16 茲こゝに我われ心こゝろをつくして智慧󠄄ちゑを知しらんとし世よに爲なすところの事ことを究きはめんとしたり 人ひとは夜よるも晝ひるもその目めをとぢて眠ねむることをせざるなり 17 我われ神かみの諸もろ〳〵の作爲わざを見みしが人ひとは日ひの下したにおこなはるるところの事ことを究きはむるあたはざるなり 人ひとこれを究きはめんと勞らうするもこれを究きはむることを得えず 且かつ又󠄂また智者ちしやありてこれを知しると思おもふもこれを究きはむることあたはざるなり

第9章

1 我われはこの一切すべての事ことに心こゝろを用もちひてこの一切すべての事ことを明あきらめんとせり 即すなはち義ただしき者ものと賢かしこき者ものおよびかれらの爲なすところは神かみの手てにあるなるを明あきらめんとせり 愛いつくしむや惡にくむやは人ひとこれを知しることなし一切すべての事ことはその前󠄃さきにあるなり

2 諸すべての人ひとに臨のぞむ所󠄃ところは皆みな同おなじ 義ただしき者ものにも惡あしき者ものにも善よき者ものにも 淨きよき者ものにも穢けがれたる者ものにも 犧牲いけにへを献さゝぐる者ものにも犧牲いけにへを献さゝげぬ者ものにもその臨のぞむところの事ことは同一ひとつなり 善よき人ひとも罪人つみびとに異ことならず 誓ちかひをなす者ものも誓ちかひをなすことを畏おそるる者ものに異ことならず
 1156㌻ 
3 諸すべての人ひとに臨のぞむところの事ことの同一ひとつなるは是これ日ひの下したにおこなはるる事ことの中うちの惡あしき者ものたり 抑そも〳〵人ひとの心こゝろには惡あしき事こと充みちをり その生いける間あひだは心こゝろに狂妄きやうまうを懷いだくあり 後のちには死しにし者ものの中うちに往󠄃ゆくなり 4 凡およそ活いきる者ものの中うちに列つらなる者ものは望󠄇のぞみあり 其そは生いける犬いぬは死しせる獅子しゝに愈󠄃まさればなり 5 生者いけるものはその死しなんことを知しる 然されど死しぬる者ものは何なに事ごとをも知しらずまた應報むくいをうくることも重かさねてあらず その記憶おぼえらるる事ことも遂󠄅つひに忘󠄃わすれらるるに至いたる 6 またその愛いつくしみも惡にくしみも嫉ねたみも旣󠄁すでに消󠄃きえうせて彼等かれらは日ひの下したにおこなはるる事ことに最早もはや何時いつまでも關係かかはることあらざるなり

7 汝なんぢ往󠄃ゆきて喜悅よろこびをもて汝なんぢのパンを食󠄃くらひ樂たのしき心こゝろをも汝なんぢの酒さけを飮のめ 其そは神かみ久ひさしく汝なんぢの行爲わざを嘉納󠄃よみしたまへばなり 8 汝なんぢの衣服󠄃きものを常つねに白しろからしめよ 汝なんぢの頭かしらに膏あぶらを絕たえしむるなかれ 9 日ひの下したに汝なんぢが賜たまはるこの汝なんぢの空󠄃くうなる生命いのちの日ひの間あひだ汝なんぢその愛あいする妻つまとともに喜よろこびて度生くらせ 汝なんぢの空󠄃くうなる生命いのちの日ひの間あひだしかせよ 是これは汝なんぢが世よにありて受うくる分󠄃ぶん汝なんぢが日ひの下したに働はたらける勞苦らうくによりて得うる者ものなり 10 凡すべて汝なんぢの手てに堪たふることは力ちからをつくしてこれを爲なせ 其そは汝なんぢの往󠄃ゆかんところの陰府よみには工作わざも計謀はかりごとも知識ちしきも智慧󠄄ちゑもあることなければなり

11 我われまた身みをめぐらして日ひの下したを觀みるに 迅󠄄速󠄃とき者もの走はしることに勝󠄃かつにあらず强者つよきもの戰爭たたかひに勝󠄃かつにあらず 智慧󠄄かしこき者もの食󠄃物くひものを獲うるにあらず 明哲さとき人ひと財貨たからを得うるにあらず 知識ものしり人びと恩顧󠄃めぐみを得うるにあらず 凡すべて人ひとに臨のぞむところの事ことは時ときある者もの偶然ぐうぜんなる者ものなり〘890㌻〙 12 人ひとはまたその時ときを知しらず 魚うをの禍わざはひの網󠄄あみにかかり鳥とりの鳥羅とりあみにかかるが如ごとくに世よの人ひともまた禍患わざはひの時ときの計はからざるに臨のぞむに及およびてその禍患わざはひにかかるなり

13 我われ日ひの下したに是この事ことを觀みて智慧󠄄ちゑとなし大おほいなる事こととなせり 14 すなはち茲こゝに一箇ひとつの小ちひさき邑まちありて その中うちの人ひとは鮮すくなかりしが大おほいなる王わうこれに攻せめきたりてこれを圍󠄃かこみこれに向むかひて大おほいなる雲梯うんていを建󠄄たてたり 15 時ときに邑まちの中うちに一人ひとりの智慧󠄄ちゑある貧󠄃まづしき人ひとありてその智慧󠄄ちゑをもて邑まちを救すくへり 然しかるに誰たれありてその貧󠄃まづしき人ひとを記念おもふもの無なかりし
 1157㌻ 
16 是こゝにおいて我われ言いへり智慧󠄄ちゑは勇󠄃力ちからに愈󠄃まさる者ものなりと 但たゞしかの貧󠄃まづしき人ひとの智慧󠄄ちゑは藐視かろんぜられその言詞ことばは聽きかれざりしなり 17 靜しづかに聽きける智者ちしやの言ことばは愚者ぐしやの君長つかさたる者ものの號呼よばはりに愈󠄃まさる 18 智慧󠄄ちゑは軍いくさの器うつはに勝󠄃すぐれり一人ひとりの惡人あくにんは許多あまたの善事よきわざを壞そこなふなり

第10章

1 死しにし蠅󠄄はひは和香者かをりづくりの膏あぶらを臭くさくしこれを腐くさらす 少許すこしの愚癡ぐちは智慧󠄄ちゑと尊󠄅榮ほまれよりも重おもし 2 智者ちしやの心こゝろはその右みぎに愚者ぐしやの心こゝろはその左ひだりに行ゆくなり 3 愚者ぐしやは出いでて途󠄃みちを行ゆくにあたりてその心こゝろたらず自己おのれの愚ぐなることを一切すべての人ひとに吿つぐ 4 君長つかさたる者もの汝なんぢにむかひて腹はらたつとも汝なんぢの本處ところを離はなるる勿なかれ溫順をんじゆんは大おほいなる愆とがを生しやうぜしめざるなり

5 我われ日ひの下したに一ひとつの患事うれへあるを見みたり是これは君長つかさたる者ものよりいづる過󠄃誤󠄄あやまちに似にたり 6 すなはち愚おろかなる者もの高たかき位くらゐに置おかれ貴たふとき者もの卑ひくき處ところに坐すわる 7 我われまた僕しもべたる者ものが馬むまに乘のり王侯きみたる者ものが僕しもべのごとく地ちの上うへに步あゆむを觀みたり

8 坑あなを掘ほる者ものはみづから之これにおちいり石垣いしがきを毀こぼつ者ものは蛇へびに咬かまれん 9 石いしを打うちくだく者ものはそれがために傷きずを受うけ木きを割󠄅わる者ものはそれがために危難あやうきに遭󠄃あはん 10 鐵てつの鈍にぶくなれるあらんにその刃󠄃はを磨󠄃とがざれば力ちからを多おほく之これにもちひざるを得えず 智慧󠄄ちゑは功こうを成󠄃なすに益えきあるなり 11 蛇へびもし呪術󠄃まじなひを聽きかずして咬かまば呪術󠄃師まじなひしは用ようなし 12 智者ちしやの口くちの言語ことばは恩德めぐみあり 愚者ぐしやの唇くちびるはその身みを呑のみほろぼす 13 愚者ぐしやの口くちの言ことばは始はじめは愚おろかなり またその言ことばは終󠄃をはりは狂妄きやうまうにして惡あしし 14 愚者ぐしやは言詞ことばを衆おほくす 人ひとは後のちに有󠄃あらん事ことを知しらず 誰たれかその身みの後のちにあらんところの事ことを述󠄃のぶるを得えん 15 愚者ぐしやの勞苦ほねをりはその身みを疲つからす彼かれは邑まちにいることをも知しらざるなり
 1158㌻ 

16 その王わうは童子わらべにしてその侯伯きみたちは朝󠄃あしたに食󠄃しよくをなす國くによ 汝なんぢは禍わざはひなるかな 17 その王わうは貴族うまびとの子こまたその侯伯きみたちは醉ゑひ樂たのしむためならず力ちからを補おぎなふために適󠄄ほど宜よき時ときに食󠄃しよくをなす國くによ 汝なんぢは福さいはひなるかな〘891㌻〙 18 懶惰ものうきところよりして屋背やねは落おち 手てを垂たれをるところよりして家屋いへは漏もる 19 食󠄃事しよくじをもて笑わらひ喜よろこぶの物ものとなし酒さけをもて快樂たのしみを取とれり 銀子かねは何なに事ごとにも應おうずるなり 20 汝なんぢ心こゝろの中うちにても王わうたる者ものを詛のろふなかれ また寢室ねやにても富とめる者ものを詛のろふなかれ 天空󠄃そらの鳥とりその聲こゑを傳つたへ羽翼󠄅つばさある者ものその事ことを布ふるべければなり

第11章

1 汝なんぢの糧食󠄃くひものを水みづの上うへに投なげよ 多おほくの日ひの後のちに汝なんぢふたゝび之これを得えん 2 汝なんぢ一箇ひとつの分󠄃ぶんを七しちまた八はちにわかて 其そは汝なんぢ如何いかなる災害󠄅わざはひの地ちにあらんかを知しらざればなり 3 雲くももし雨あめの充みつるあれば地ちに注そゝぐ また樹きもし南みなみか北きたに倒たふるるあればその樹きは倒たふれたる處ところにあるべし 4 風かぜを伺うかがふ者ものは種播たねまくことを得えず 雲くもを望󠄇のぞむ者ものは刈かることを得えず 5 汝なんぢは風かぜの道󠄃みちの如何いかなるを知しらず また孕はらめる婦󠄃をんなの胎はらにて骨ほねの如何いかに生長そだつを知しらず 斯かく汝なんぢは萬事ばんじを爲なしたまふ神かみの作爲わざを知しることなし 6 汝なんぢ朝󠄃あしたに種たねを播まけ 夕ゆふべにも手てを歇やすむるなかれ 其そはその實みのる者ものは此これなるか彼かれなるか又󠄂または二者ふたつともに美よくなるや汝なんぢこれを知しらざればなり 7 夫それ光明ひかりは快こころよき者ものなり 目めに日ひを見みるは樂たのし 8 人ひと多おほくの年とし生いきながらへてその中うち凡すべて幸福さいはひなるもなほ幽暗󠄃くらきの日ひを憶おもふべきなり 其そはその數󠄄かずも多おほかるべければなり 凡すべて來きたらんところの事ことは皆みな空󠄃くうなり

9 少者わかきものよ汝なんぢの少わかき時ときに快樂たのしみをなせ 汝なんぢの少わかき日ひに汝なんぢの心こゝろを悅よろこばしめ汝なんぢの心こゝろの道󠄃みちに步あゆみ汝なんぢの目めに見みるところを爲なせよ 但たゞしその諸もろ〳〵の行爲わざのために神かみ汝なんぢを鞫さばきたまはんと知しるべし 10 然されば汝なんぢの心こゝろより憂うれひを去さり 汝なんぢの身みより惡あしき者ものを除のぞけ 少わかき時ときと壯さかりなる時ときはともに空󠄃くうなればなり
 1159㌻ 

第12章

1 汝なんぢの少わかき日ひに汝なんぢの造󠄃主つくりぬしを記おぼえよ 即すなはち惡あしき日ひの來きたり年としのよりて我われは早はや何なにも樂たのしむところ無なしと言いふにいたらざる先さき 2 また日ひや光明ひかりや月󠄃つきや星ほしの暗󠄃くらくならざる先さき 雨あめの後のちに雲くもの返󠄄かへらざる中うちに汝なんぢ然しかせよ 3 その日ひいたる時ときは家いへを守まもる者ものは慄ふるひ 力ちからある人ひとは屈かがみ 磨󠄃ひき碎こなす者ものは寡すくなきによりて息やすみ 窓まどより窺うかゞふ者ものは目め昏くらむなり 4 磨󠄃ひきこなす聲おと低ひくくなれば衢ちまたの門もんは閉とづ その人ひとは鳥とりの聲こゑに起󠄃おきあがり 歌うたの女子むすめはみな身みを卑ひくくす 5 かかる人々ひと〴〵は高たかき者ものを恐おそる畏おそろしき者もの多おほく途󠄃みちにあり 巴旦杏はたんきやうは花はな咲󠄃さくまた蝗いなごもその身みに重おもくその嗜し欲よくは廢すたる 人ひと永遠󠄄えいゑんの家いへにいたらんとすれば哭婦󠄃なきめ衢ちまたにゆきかふ 6 然しかる時ときには銀しろかねの紐ひもは解とけ金こがねの盞さらは碎くだけ吊瓶つるべは泉いづみの側そばに壞やぶれ轆轤くるまは井ゐの傍かたはらに破われん〘892㌻〙 7 而しかして塵ちりは本もとの如ごとくに土つちに皈かへり 靈魂たましひはこれを賦さづけし神かみにかへるべし 8 傳道󠄃でんだう者しや云いふ空󠄃くうの空󠄃くうなるかな皆みな空󠄃くうなり

9 また傳道󠄃でんだう者しやは智慧󠄄ちゑあるが故ゆゑに恒つねに知識ちしきを民たみに敎をしへたり 彼かれは心こゝろをもちひて尋󠄃たづね究きはめ許多あまたの箴言しんげんを作つくれり 10 傳道󠄃でんだう者しやは務つとめて佳美うるはしき言詞ことばを求もとめたり その書かきしるしたる者ものは正直ただしくして眞󠄃實まことの言語ことばなり

11 智者ちしやの言語ことばは刺とげ鞭むちのごとく 會衆くわいしうの師しの釘うちたる釘くぎのごとくにして 一人ひとりの牧者ぼくしゃより出いでし者ものなり 12 わが子こよ是等これらより訓誡いましめをうけよ 多おほく書しよをつくれば竟はてしなし 多おほく學まなべば體からだ疲つかる

13 事ことの全󠄃體ぜんたいの皈きする所󠄃ところを聽きくべし 云いはく 神かみを畏おそれその誡命いましめを守まもれ 是これは諸すべての人ひとの本ほん分󠄃ぶんたり 14 神かみは一切すべての行爲わざならびに一切すべての隱かくれたる事ことを善よし惡あしともに審判󠄄さばきたまふなり〘893㌻〙
 1160㌻